岩手県北上市で固定種を中心とした農業で、農薬を使わず自然と野菜の力を最大限に活用する伊藤さん
『固定種本来の力を引き出す「少しの野菜優先」農業』
畑の雑草は根元から全て刈り払うのではなく、あえて残しています。
雑草が根元から抜かれた畑は見栄えが良くて綺麗ですけど、それは人間都合で「野菜ファースト」じゃないと僕は思うんですよね。特に僕が育てている固定種は、その土地の自然の中で代々と強く育ってきたものなので、人間都合で手を加える必要がないと思っております。だから雑草が生えても、野菜が他の雑草より日が当たりやすいように、上の方だけを刈り払うだけにしています。
野菜のためだけの環境を整えるのではなく、「少しの野菜優先」を心がけ、自然の中で野菜を育てるようにしています。ただ人参やネギの苗は、葉の部分が小さく成長スピードが遅いので普段より注意して草刈りをすることが必要です。
そもそも「固定種」というのは前に作られた野菜から種をとり性質(味や形)が継承される特性を持っています。スーパーで売られている野菜はいつ行っても形や味はあまり変わらないんじゃないの?って思うかもしれませんが一般的に売られているものは「F1種」というものがほとんどです。F1種は発芽・生育が揃うような品種改良がされております。自分が育てている野菜は、種一つ一つの遺伝子が異なっており、生育スピードに差が生じるためF1種のように安定した数量が収穫できるわけではありません。
しかし農薬を使わないで作った野菜は味が濃くて美味しくなるような気がします。特にこれからの時期だと小松菜、ルッコラ、からし菜などが絶品です。オススメの食べ方はそれらの野菜にオリーブオイルと塩のみのサラダです。それぞれの味がしっかりしているため自分はそのままご飯に乗せて食べたりしています。また、9月頃から収穫する「オオウラフトゴボウ」なんかも固定種の野菜としてはオススメです。このゴボウは江戸時代に殿様に献上する時にも使用されていたゴボウで、一般的なゴボウに比べるとかなり太いのが特徴です。太くなると中に空洞ができモサモサとするイメージがあると思いますが、オオウラフトゴボウは美味しく食べられます。家ではゴボウ自体が太いのでオオウラフトゴボウの中をくりぬいて、ひき肉を詰めて煮込んで食べています。箸で切れるほど柔らかくなるのでぜひやってみていただきたいです。またチップスにしたり、ポタージュにするのなんかもオススメです。
『土を育てて野菜が育つ』
野菜を育てるというよりも、野菜が育つ環境(土)を育てている感覚の方が強いです。あえて刈った草をその場に置いているのも草が腐ってそれが土の養分となるからです。養分がなければ地面の中の虫たちも育たず、いい土ができません。今の時期(5月)の植え始めの頃には、雑草はあまりありませんがこれから野菜とともに雑草もぐんぐん成長していきます。
草がなくて虫がいない自然って不自然ですよね。私は農薬は使用していませんので、草や虫の自然の力を最大限に生かして土を作っています。ただ、農薬を使わないと虫に食べられてしまったり大きく育たなかったりでうまく育たない野菜も出てくるのがリアルです。だから植えた野菜の3分の2が収穫できればいいと思いながら、作付けをしています。
収穫できなかった残りの3分の1の野菜はそのまま土に返しているので、それもまた土の養分になります。これが自然な形なのかなと思います。
あくまでも自然が自然であり続けられるように、農業をしています。