今回は宮城県川崎町前川地区にて持続可能な社会のモデルを創ろうと奮闘中の朏昌汰(みかづきしょうた)さんを取材しました。
【留学先のニュージーランドでの出会いが人生の契機】
京都府出身の昌汰さんは高校卒業後、京都市営地下鉄に就職。地下鉄の運転手をしていたが、様々な方のお話を聞く中で、将来的に企業を志すようになり、ニュージーランドに留学した。
そこでは現在のパートナー利奈さんとの出会いや川崎に移住するきっかけとなった中安祐太さんとの出会いがあった。
パートナーの利奈さんは、千葉県出身でスポーツジムのインストラクターの仕事をしていたが、仕事は好きだったが周りの友人たちが好きな道に進むのに影響を受けて留学を決意。もともと自然が好きで将来は農業をしながら暮らしたいと思っていたため、自然豊かなニュージーランドに留学していた。
昌汰さんが留学先で出会ったもう一人の日本人、中安祐太さんは当時、東北大学大学院で材料工学を研究する大学院生。震災を経て原発に依存した社会が衰退していくのは目に見えているなら自分たちで食やエネルギーを作っていかなければならない、と強く思っていた祐太さんと昌汰さんは、すぐに意気投合し、現在の活動の先駆けとなった。
【人が温かく、居心地のいい場所、川崎】
東北の都、仙台市から車で30分ほど内陸に位置する宮城県川崎町。昌汰さんと祐太さんの熱い思いに共感し受け入れてくれたのが、この川崎の地で農業を営む菊池重雄さんだ。
重雄さんは宮城県の沿岸沿いから川崎町に移住し、憧れだった自給自足の暮らしをスタートさせた。
重雄さんは畑や田んぼを借り、野菜や米を育てる生活を送っていた。そんな中、2014年に妻の順子さんが亡くなった。重雄さんは順子さんが亡くなる3日前に出向いた講演会で、祐太さんと出会い、重雄さんの考えに共感した中安さんは昌汰さんと共に川崎町へ移住することを決意した。
【本格始動】
昌汰さんは移住後、川崎町の地域おこし協力隊になり、祐太さんは東北大学の研究職を続けながらエコビレッジ形成に向けて2018年に任意団体「百」を発足した。
その一方で、昌汰さんと暮らし始めていた利奈さんは移住して間も無く重雄さんから畑を借りて野菜作りを始めた。都会から移住してきて農業の経験はほとんどなかったが、自然や土に触れることがとにかく楽しく、利奈さんは「その土地や気候に合わせて育てることにより、その土地に対するありがたみや感謝の気持ちが強くなっていくんです。また川崎町の方は、ほんっとにいい方ばかりで、みなさんに支えられながら毎日を過ごせていることにも感謝です」と娘さんの里歩ちゃんを抱えながら語る。
2021年、昌汰さんの地域おこし協力隊の任期が終わるタイミングで夫婦二人で本格的に農業を始めることに。
農園の名称は「Ekai」。ニュージーランドの先住民マオリの言葉で「いただきます」という意味。
二人は無化学肥料、無農薬栽培で野菜を育てていて、可能な限り種取りも自分たちで行う。
手間暇がかかる農法を選択しているが、新規就農2年目にして非常に広い範囲を手掛ける。
二人での栽培が中心だが、顧問である重雄さんを始め、週末になれば知り合いや近所の学生がたくさん駆けつけ、みんなでわいわい楽しみながら作業をしている。昌汰さんは「農作業をしていると道路から手を振ってくださる方がいたり、特に週末はお祭りのような賑わい。仕事ということを忘れるくらい、すごくいいところなんです」と語る。
このようにして様々な人の思いが込められて、Ekaiの野菜ができあがる。昌汰さんは「今年は新規就農2年目ということもあり、昨年よりも品目を増やしています。特に1年目から作っている「雪下にんじん」はぜひ食べてもらいたいですね。にんじんは成長するまで葉が小さく、雑草取りがとっても大変です。しかしみんなに支えられながらできたにんじんは、さらに雪の下で眠らせることにより糖度が増して甘くて美味しいです。このままミキサーにかけて砂糖も入れずににんじんジュースにして飲んでいる人もいるくらいです。」と笑顔で語る。
【大家さんであり相談役であり、もはや家族のような存在の重雄さん】
昌汰さんたちが今住んでいる家は重雄さんの敷地の離れで、この家は今は亡き重雄さんの妻・順子さんが設計したもの。広いリビングに吹き抜けの天井が印象的な木のぬくもりを感じる温かい家にお邪魔しました。
自分が取材させていただいたときは、農作業が終わりみんなで近くの温泉に入りに行き、夕飯は昌汰さんのお家で重雄さんも一緒にご馳走に。初めて伺ったのにも関わらず、その流れがとてもスムーズで一緒に生活をしているんじゃないかと思ってしまうくらい居心地がよかった。
昌汰さん家族と重雄さんは夕飯を共にすることが多く、朝食は毎日重雄さんのお家で重雄さんの手づくりの朝食を食べているそう。
利奈さんは「重雄さんの作る朝ごはんは本当に美味しくて毎朝が楽しみです。フルーツもたくさんあって1日のスタートは毎日幸せです」。
1歳の里歩ちゃんも重雄さんが大好きで一緒にいるときはべったり。
重雄さんも「毎日こうやってご飯を一緒に食べて元気をもらっているけども、お互いにエネルギー交換をしているんじゃないのかなと思う」と顔を緩めながら話す。
昌汰さんは「今後はこの農園であるEkaiにいろんな人がきてもらえたら嬉しいです。」と語る。