今回は秋田県横手市で自然農法で農業を行っている山猫軒の荒尾さんについて書かせていただきました。
私がとうほくやさい便を始める前からお世話になっている荒尾さんは、農業に携わる以前には多様な業種での経験を持つ。
西表島ではシーカヤックのインストラクターに10年間従事し、
神奈川の鎌倉ではアウトドアブランドでアパレル経験を積み、並行して山猫軒というパスタ屋さんを一人で営んできた。
そして、結婚を機に東北、秋田県の横手市に移住することに。
以前の山猫軒というお店の名前で今も農業という形で活動されている。
現在荒尾さんは妻方の祖父母が持っていた田んぼや畑を利用して農薬や除草剤をかけずできる限り自然の力を利用して農作物を栽培している。
荒尾さんの田んぼは4年間放棄地になった田んぼを活用しており、今では放棄地だったとは思えない程の蘇りを魅せている。
そこは山に囲まれ小さな棚田のようになっており、まさに昔っぽく風情のある田舎にタイムスリップしてきたかのようなリラックスした気分になる。
荒尾さんの米作りは現在は文明の利器を使用した農法と違い、例えば稲刈り後は乾燥機に入れて米を乾かす農家さんが多い中、荒尾さんはあえて「はさがけ」という方法で稲を2週間程度天日乾燥後、乾燥機で最終調整をする。
写真を見ていただければその迫力は伝わるだろう。
土地を有効的に活用するため、「はさがけ」は5段重ねになっており、5段目に稲をかける際には、はしごを使わなければかけられない。ダイナミックで達成感のある作業である。
このように土地を有効利用させたことに対しては、きちんと結果が帰って来るし、もっと工夫できることはないかと考えることに繋がる。それが自然栽培をコツコツと継続する楽しさだ。
また、稲刈りの際はバイダーと呼ばれる手押しの刈り取り機、機械の入らない手刈りの場所もある。
横手の冬は降雪量の豊富さで有名。2月に行われる雪まつりには全国から、約3mもの雪のやしろ「かまくら」を楽しみに訪れる人でにぎわう。各家では雪かきが大変だが、大変なだけあって雪かきの時には必然的に、隣の家、地域、自治体といかに協力しあうかが鍵になる。家が埋まるほどの雪を前に、その多さには時に冗談を交わし合い、多くのコミュニケーションが生まれ、地域の絆が深まっていく。
無農薬で栽培した野菜たちはどれも味が濃く野菜本来の味を感じることができる。
また、大根を収穫した後には収穫した半分の大根で無添加のいぶりがっこを作っている。
昔は保存食としての食料だったいぶりがっこ、今や立派な食事のつけ合わせであり秋田土産の代表メンバーだ。
ここ数年、私は荒尾さんのいぶりがっこを食べているが、これは罠なのかというほどおいしくて止まらなくなる。
秋田で農業を行う際に、特に軸にしているのは雪の季節までの間にどんな準備ができるかだ。
野菜を収穫期がまだ終わらないうちに雪が降ってしまうと野菜を収穫できなくなってしまったり、夏の片付けも雪が本格的に降る前にしてしまわないと片付けもできなくなってしまう。
秋が終わり雪が降るまでは毎年のように急ピッチで収穫や片付けが行われる。
雪が解ければ山菜が採れ、春になればイワナをとり、田植えをし、夏は野菜の収穫と草刈り、秋は収穫、冬に備えて保存食作り、雪が降れば雪下ろしと格闘し、これが本来の四季の恩恵と日本人の暮らし。農の暮らし。なのかもしれない。
文章では書ききれないほどさまざまなことがあるのが農業。
私はこのとうほくやさい便を通してそんな農業や農のあれこれを伝えたいと思ったのは、荒尾さんに出会ったのも一つの理由だ。
言うなれば限界集落とも呼ばれるような山の中は、これから少しずつ光が差し込み、いつしか自然と人が帰りたくなる場所になっていくに違いない。
本来日本人が行っていた「農」の形がここにはあった。